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対談記事 アース製薬 × 田上大喜 人と蚊は、共生できるのか?

対談記事 アース製薬 × 田上大喜
人と蚊は、共生できるのか?

東京2020 スペシャル記事 PART2

目前に迫った東京2020オリンピック・パラリンピック、そしてその先の日本へ。
私たちアース製薬は、メダルを競うアスリートたちと大会を全力でサポートすると共に、
様々なジャンルで未来創造に挑戦する若者たちを応援します。

田上さんとアース製薬、研究の進め方は違うものの、その目的は同じ「蚊に刺されることのない社会の実現」です。東京2020をきっかけに変わる社会、そして新たな未来を作り出すべく、蚊の研究に対する取り組み方や、ゴールに向かうプロセスなどについて熱い議論を交わしました。

対談
田上大喜さん 田上大喜さん
アース製薬研究所 東主任研究員 アース製薬研究所
東主任研究員
アース製薬研究所 三木研究員 アース製薬研究所
三木研究員

目次

研究を支える「人を救いたい」思い

──同じ研究者として、田上さんの蚊の研究法について聞いてみたいことはありますか。

これまで足のニオイが蚊を引き寄せることは何人もの研究者が注目していましたが、田上さんが目をつけた、足の常在菌(※1)の集まりである「細菌叢(さいきんそう)(※2)」に着目した研究者はこれまでいませんでした。どうして細菌叢を調べてみようと考えたのでしょうか。

田上さん僕の足のニオイを嗅がせると、それが刺激となり交尾することがわかったのです。だから足のニオイが一つカギになると考えました。そこで高校にあった細菌培養設備を使っていろいろな人の足の菌を培養し、蚊の反応を調べたのです。蚊に刺されやすい妹はもちろん、同級生や先生にも頼みました。すると、刺されやすい人の足のニオイを嗅がせたときに、蚊がよく反応する。これで足の裏の菌が関係していると考えました。

三木そこから細菌叢へと発想を広げたのですね。

田上さん次に、自分の足の細菌を一種類ずつ単離培養してみました。これを蚊に嗅がせてみると、単離培養した菌には反応しない。そこで妹の足の菌と僕の足の菌を比べてみると、妹のほうが圧倒的に種類が多かった。だからまず、菌の種類が刺されやすさに関係していると考えました。そしておそらくは単一の菌が蚊を引き寄せるのではなく、複数の菌が影響していると推測したのです。

私だったら、蚊がよく寄ってくる足があれば、そのまわりの空気に目をつけたと思います。菌の種類を調べてみようと思ったのは、培養できる設備があったからですか。

田上さん設備があったのは大きいと思いますね。クリーンベンチ(※3)があれば、培養自体はそれほど難しい作業ではないので。

三木それで妹さんには1,300種類あったのですね。

田上さん正確な種類数がわかったのは、共同で研究を行なっていたテレビ番組の制作時に専門の分析機関で分析してもらったからです。菌のRNA(※4)を調べたとおっしゃっていました。

※1:常在菌
ヒトの身体に存在する微生物(細菌)のうち、多くの人に共通してみられ、病原性を示さないもの。

※2:細菌叢
ある特定の環境に生息する微生物の集まり。ヒトや動物の腸内細菌叢(腸内フローラ)などが知られる

※3:クリーンベンチ
細胞や微生物を取り扱う際に、埃や雑菌の混入(コンタミネーション)を防ぎ、無菌状態で作業するための装置。

※4:RNA(リボ核酸)
リボヌクレオチドが多数重合したもので、細胞の核や細胞質中に存在。DNAとともに遺伝やタンパク質合成を支配する。

実験するたびに発見がある

──蚊の交尾に関する田上さんの発見について、どう思いますか。

蚊が一般的には一生に一度しか交尾しないとされていたことを、私は知らなかったのですが、田上さんは先行研究を調べた上で疑問を持った。自分の疑問を大切にする姿勢に研究者としての凄みを感じます。また、蚊を飼育しているダンボール箱に足の裏を近づける実験を行い、複数回交尾することを発見できたのも、蚊に対する理解の深さと、定説を鵜呑みにしない姿勢からですよね。その根気が素晴らしいです。途中で嫌になったりしなかったのですか。

田上さん実験するたび新しいことがわかるので、面白くってやめられない感じですね。

蚊は日によってコンディションが大きく変わります。まったく飛んでこなくて実験できない日などもあったと思うのですが。

田上さん家の近くに神社があって、その裏山に蚊がたくさんいるんです。だから飛んでこないときは、そこまで採りに行っていました。

三木実験は毎日続けていたのですか。

田上さんそうです。僕は交尾に目をつけていたので、交尾の日付と羽化の日付を欠かさず記録しなければなりません。生まれてくる蚊を一匹ずつ仕分けするのは、かなり時間がかかりました。蚊は夜になるほど活発に活動しますから、どうしても夜の9時ぐらいから日が変わって2時ぐらいまではかかります。

どんなキッカケで交尾に注目されたのでしょう。

田上さん最初は蚊の好きなニオイと嫌いなニオイを調べていたのです。家にあるいろいろなモノのニオイを嗅がせて反応を見ると、やはり足の裏のニオイに最も強く反応して交尾する。そこで先行研究を論文で調べてみると、蚊は生涯に一度しか交尾をしないと書かれていました。それがすごく不思議で、それから交尾の条件などを調べようと考えたのです。

よく一人でそこまで突き詰められますね。独学だと、一人で論文を読んで研究していくわけでしょう、先行研究を調べるだけでも大変だと思います。今後は関連領域の専門家と共同で研究を進められたら、入ってくる知識の量が一気に増えて素晴らしい成果が生まれるのではないかと思います。

三木田上さんは「蚊の刺されやすさ定数」を導き出されていますよね。研究で得られた成果を、社会に還元しようとする姿勢には頭が下がる思いがしました。個人がどれぐらい蚊にさされやすいかを数値で示せば、感染症対策の啓蒙になると思います。

田上さんありがとうございます。

──田上さんが現在取り組まれている「ショウジョウバエの研究」についてはいかがですか。

三木大学に進むといきなり研究所に入り、今度はショウジョウバエを対象に遺伝子の発現など新たな領域の研究に取り組まれている。すごい吸収力ですね。

そもそもショウジョウバエに興味を持たれたのはどうしてですか。

田上さん大学のスカラーシップに選ばれたときに、僕を推薦してくれた教授とお会いして今後についてお話する機会がありました。そこで「脳について研究してみたら面白いんじゃないか」とアドバイスを受けたのです。早速、神経幹細胞に関する論文を読み、ノーベル賞受賞者を多数抱える、大学内にある研究所に行ったら、ちょうどショウジョウバエの神経幹細胞の研究をやっていたので、僕もこれをやりたいと思いました。テーマは「How to make Drosophila neural stem cells produce early born neurons(ショウジョウバエの神経幹細胞に初期ニューロンを産生させる方法)」(※1)です。 今は自由に様々な研究をやらせてもらえる環境にいるので毎日がとても充実しています。もちろん蚊の研究も続けていて、最終的にはショウジョウバエでの研究成果を活かして、蚊が人を刺さないようにできればいいなと思っています。

Michael Dames for Columbia University's Zuckerman Institute

それができれば素晴らしいですね。

三木蚊にも人を好むタイプ、家畜を好む種類などいろいろな嗜好性があるので、人を好まなくできる可能性はありそうですね。

田上さんいま僕は大学院の医学部にある脳科学センターで研究しています。そこでショウジョウバエの研究を通じて、最終的には胚の神経幹細胞から病気の治療などに必要な神経細胞を作りたいのです。実現すればパーキンソン病などで苦しんでいる方を救える可能性があります。

三木妹さんを蚊から救ってあげたいと思われたのと同じで、人助けをされたいのですね。

田上さん人助けをしたい思いはアース製薬さんと同じではないでしょうか。

──田上さんは蚊の研究から始めて、今はショウジョウバエの研究に取り組んでいますが、研究に対するモチベーションはどこから出てくるのでしょうか。

田上さん観察する面白さと、観察によって生まれる疑問です。虫たちの行動をじっと見ていると、次から次へと疑問が湧いてきて、興味が尽きません。そして実験すると、おもしろい結果が出てくる。

例えば、どのような結果でしょうか。

田上さん蚊の研究だったら、色々なニオイを嗅がせた中で、足のニオイには強く反応しました。ニオイなどの条件を変えていくと、蚊の行動が変わっていきます。

やはりそうなんですね。不思議な現象を見つけたときに、自分で仮説を立てて、実験して思ったとおりの現象を再現できれば、新しい事実がわかる。これは面白いですよね。

田上さん何かを発見したときのぞくぞくするような面白さ、よくわかります。

※1
「Restriction of Neural Progenitor Competence in the Drosophila Central Nervous System」より

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